仁和寺所蔵『今様之書』所載白拍子歌謡について(一)

 仁和寺所蔵の『今様之書』には、白拍子歌謡の歌詞が三十曲分収められている(滝田英二「白拍子の新資料「今様之書」」昭和四十一年十月『国語と国文学』参照)。

 白拍子歌謡は資料も少なく、実態については不明な点が多いが、『今様之書』にはその歌詞が多く掲載されており、謡曲などとの関係が推察され、歌謡史上興味深いものだと言えよう。下記の「祝曲(いわいのきょくと読むのであろうか)」はこの『今様之書』冒頭に掲載されているものである(便宜上、一部表記を改めた)。

 

祝曲

鳳凰阿閣(あかく)に巣をさだめ。酒泉砌にいでつヽ。一人明主ましませば。諫皷(かんこ)も置て何かせん。君が齢は常磐山。峰の小松の行末に。引かれて久しかれやな。

上〽長生殿のうちには。王母が桃花をもて遊。

二〽不老門の前には。東父菊を手すさみ。伴造(とものみやつこ)我等までも。朝置く露のみさえだ(御小枝?)を。打払にも千代は経ぬべしやな。〳〵

〽常磐なる三笠の山の杉むらや八百万代のしるしなるらん〳〵

 

 全体として、君主の素晴らしい治世や長寿を祈願するめでたい表現が重ねられている。個々の句は緊密な関係を保っているというよりは、そうしためでたさを連想させるものが縁語的にゆるやかな形で続けられ、祝意を表現している。

また『和漢朗詠集』や『新古今和歌集』などを典拠として踏まえている節が見られ、典拠の選択がやや典型的な感はあるが、多少は学のある者の手によって作られたように思われる。

 

  長生殿裏春秋富(長生殿の裏には春秋富めり)

  不老門前日月遅(不老門の前には日月遅し)

『和漢朗詠集』775 慶滋保胤

 

   仙人(やまびと)の折る袖にほふ菊の露うちはらふにも千代(ちよ)は経ぬべし

『新古今和歌集』719、皇太后宮大夫俊成

 

〈現代語訳〉

聖主の治世を寿ぐ象徴である鳳凰は高殿に巣を作ることを決め、酒の泉は庭の敷石からわき出ている。一人の賢明な君主がいらっしゃれば、施政にもの申す人が鳴らす諫皷を置いても何かしようか、いや何もしないのだ。君主の年齢はいつも緑なる常磐山の、峰の小松が成長して、長寿を祈願してひかれるように長く続いてあれよ。

上〽長生殿の中では、西王母が長寿の象徴である桃花をもって遊んでいる。

二〽不老門の前では、東王父が菊を手なぐさみに遊んでいる。下っ端役人である我等までも、小枝に置かれた朝露を打払う間にも千年が立つのだろうなあ。

〽常緑の三笠山の杉が群がり立っているのは、八百万年を経た証なのだろうなあ。

光らない源氏 書