白拍子に和歌の素養が要ることは勿論です。そして和歌を含む国文学を扱う上での素養となるのが漢文学なのではないでしょうか。
今回、当研究所で初めて漢文学を扱う為、身近に題材を求めてその一端を伺うことにしました。とりあげたのは白居易の漢詩「送王十八歸山寄題仙遊寺」。これは、「林間に酒を煖めて紅葉を焼く 石上に詩を題して緑苔を掃う」という句が『和漢朗詠集』の「秋興」にみえる他、謡曲『紅葉狩』の詞章に引用される等、人口に膾炙していたと思われます。我々にも馴染み深いと思えて取り上げました。
曾於太白峯前住,數到仙遊寺裏來。 平平仄仄平平仄 仄仄平平仄仄平
黑水澄時潭底出,白雲破處洞門開。 仄仄平平平仄仄 仄平仄仄仄平平
林間煖酒燒紅葉,石上題詩掃綠苔。 平平仄仄平平仄 平仄平平仄仄平
惆悵舊遊無復到,菊花時節羨君迴。 平仄仄平平仄仄 仄平平仄仄平平
曾て太白峯前に於いて住まい 數しば仙遊寺裏に到り來たる
黑水澄める時は潭底出で 白雲破るる處に洞門開く
林間に酒を煖めて紅葉を燒き 石上に詩を題して綠苔を掃う
惆悵す 舊遊 復た到ることなきを 菊花の時節 君が迴るを羨む
これは一句が七言でできており、全部で八句から成る律詩です。
韻は偶数句末で踏まれており、四つとも平水韻において「灰」の母音に通じると分類される音になっています。
以下、簡単に唐詩のルールに触れます。
①狭義の詩は、古体詩と今体詩に分けられる。句の長さは五言もしくは七言が多い。
今体詩はさらに句数によって、絶句、律詩に分けられる。
②五言の句は二字と三字で切れ、七言は四字と三字で切れる。
③韻律は平声と仄声(上声、去声、入声)によって決まる。
③の韻律のルールには、例えば対句と押韻があります。
二句が対応する際には、一方が平声であれば、もう一方は基本的に仄声となります。同時に、句末は押韻するべきだとされました。
他にも、「二四不同(第二字と第四字は平仄が異なる)」、「二六対(第二字と第四字の平仄は同じ)」等、韻律にはいろいろなルールがあります。
今回は漢詩の入門として、基本的な部分を少しだけ勉強いたしました。
当コラムをお読みになってご興味を持たれた方は、小川環樹『唐詩概説』(岩波書店、二〇〇五年)をご参照ください(当コラムもこちらを参考にしました)。
白居易の詩は、高木正一注『中国詩人選集 白居易 下』(岩波書店、一九五八年)を参考にしました。詩の平仄は担当者調べですので、誤っておりましたら、申し訳ございませんがご連絡頂けると幸いです。
茱萸 書